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大阪高等裁判所 昭和25年(う)3136号 判決

控訴人 神戸地方検察庁豊岡支部検事小村保秀

被告人 谷本政雄

弁護人 澁谷又二

検察官 折田信長関与

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

本件控訴理由は末尾添付の控訴趣意書の通りである。

検事は原判決は被告人が法定の貸金業者でないのに拘らず数回に亘り三十六万円を貸付けた事実を認めながら貸金業を営んだものと認め難いと断定したけれどもこれは事実の誤認である。すなわち被告人の本件貸付行為は継続性があり営利性があるから貸金業等の取締に関する法律にいわゆる貸金業であると主張する。

しかし貸金業等の取締に関する法律第二条に業として行うものというのは反覆継続の意思をもつて同条所定の行為を行うものと解すべきところ、同条所定の行為即ち貸金業を行つたといいうるがためには客観的に観察して貸金業としての形態を備えた行為がなければならない。貸金業者が普通にとつている程度の利息をとつているかどうか、或は被告人の許に行けば金が借りられるということが相当数の人々に知られているかどうかというような事情はこれを決する重要な標準である。本件の借主武中義雄、谷本佐右衛門及び和田慶太郎の原審公判における各供述並びに被告人の原審公判における供述を綜合すると被告人は製縄業を営んでいるものであるが武中は縄の集荷を業としており縄の原料である縄購入資金に窮し前後二回に二十一万円を借り、谷本は自分の弟が被告人の娘を嫁にもらつている間柄であつて事業資金に十万円を借り、和田は被告人の妹の子であつて生活費に困り五万円借りた事実が認められる。なお本件貸金の利息は月三分乃至八分にすぎないことは起訴状においても明かにせられているところであり、現在の一般貸金業者の利息が少くとも月一割以上であることは公知の事実である。

右の事実を彼此対照として考えると特殊の縁故関係に基づいて偶発的になされた貸付行為にすぎずして、未だ之を以つて業として為したものとは認められない。

論旨は全て賛成し難い。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 斎藤朔朗 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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